Shintaro.media
余宮隆さんVol.2
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料理を盛られる、お酒を注がれる、使い続けられる――
そう思いながら、器と向き合っています。

余宮 隆さん

熊本県天草

1972年 天草生まれ。
1991年 唐津「隆太窯」で陶芸の修行を始める。中里隆氏に師事。
1995年 天草「丸尾焼」で修行。
2002年 天草本町に「朝虹窯」として工房と窯を築く。


料理を盛りお酒を注いで美しいこと。
それが器の一番大切なこと、だと思うんです。

中里隆先生に弟子入りして最初に教えていただいたのは、料理でした。当たり前のことなんですが、器は料理を盛りつけるもの。だからまずは料理を知らないといけない、という隆先生の教えであり、それが住み込みの弟子の仕事だったんです。

刺身を切ったりもするので、包丁の研ぎ方から教わって。焼き物より先に、料理の腕が上がったかもしれないです(笑)。

食事は常に玄米菜食。お刺身、焼き魚、野菜の煮物、うしお汁……当時19歳だったから肉を食べたかったときもありましたけど、食材も本当にいいものばかりで、おいしかったんですよね。

3年の修行を終えて外食をしたとき、「ああ、今までおいしいもんばかり食べていたんだなぁ」ってしみじみ思ったものです。

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そういった経験がベースにあるので、器は「料理を盛ってこそ美しく見える」ものであってほしい、と僕は思っています。皿や鉢だけでなく、ぐい飲みなんかもお酒を注ぐことで器の美しさがぐっと引き立ってくる。そして、手にとったときの感覚、唇を当てたときの感触によって、その魅力がさらに増すんです。だから僕は高台と口のつくりには神経を注いでつくっています。

器って、使われるほどに完成されていくものなんですよね。お料理屋さんなどで口の部分が金継ぎされている徳利に出会うことがありますが、それもまた違った味が出ていい。作り手として、こんなにうれしいことはないと思うんです。

料理を盛られる、お酒を注がれる、使い続けられる――そうやって魅力がプラスされていくものを作れたらいいなと思って、いつも器と向き合っています。

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毎日、淡々と、丁寧に。
“頭”ではなく“心”でつくります。


器をつくるプロセスでは、あれこれ考えて、しょっちゅう試行錯誤しています。

いつも使っている粘土に山から採ってきた土を混ぜてみたり、釉薬の配合を変えてみたり。でも、そういう思いつきっていうのはたいてい失敗します(笑)。ああ、いつも通りやっておけばよかったって。とはいえ、失敗しながら、自分が目指す器に少しずつ近づいているんじゃないかな、とも思います。

最近は頭でいろいろ考えなくても、体が勝手に動くようになってきて、より理想に近づいてきているような気がしているんです。

体が勝手に動く、ということは、頭で考えるんじゃなくて、心のままにつくれているということだと思っています。

「こういう器、あったらいいな」という感覚から絞り出て来たもの、それに料理が盛られた様子までイメージできた器は、やっぱりお客さんにも喜んでもらえることが多いんです。本当は頭で考えながらつくる方がたくさんの器がつくれるんですけど、焼き上がった器に心がこもっていないような気がして。

“頭”ではなく、“心”で器をつくる……そんな感じでしょうか。

Shintaro.mediaより

中里隆先生に下着だけで(Vol.1参照)弟子入りして、最初に教えていただいたのがお料理。

『器は料理を盛ってこそ』。

当たり前すぎてサラッと聞き流してしまいそうなことですが、余宮さんは常に食卓のことを考えて器をイメージすると言います。形のいいもの、見栄えがいいもの、というよりも、食卓が楽しくなるもの。そこにはいつも使う人(お客さま)の顔があるというわけですね。余宮さんははっきり言います。

それは「売れるものを目指してきたので、いま、自分のどれが売れるかはわかります」と。

だからこそ、妥協のない、お客さまに満足いただけるもののために、定石とは違うことをしてでも、品質の高いものを作る。

まさに作るプロです。